『誰よりも狙われた男』





概要


  • 原題: A Most Wanted Man
  • 公開年: 2014年
  • 製作国: アメリカ、イギリス、ドイツ
  • 監督: アントン・コービン(『コントロール』、『裏切りのサーカス』)
  • 脚本: アンドリュー・ボヴェル(ジョン・ル・カレの同名小説に基づく)
  • ジャンル: サスペンス、スパイ、ドラマ
  • 上映時間: 122分
  • 備考: 2014年2月に急逝した名優フィリップ・シーモア・ホフマンの遺作


あらすじ


ドイツの港湾都市ハンブルク。諜報機関でテロ対策チームを率いるベテランスパイのギュンター・バッハマン(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、ロシアのチェチェン出身の青年イッサ・カルポフ(グリゴリー・ドブリギン)が密入国してきたことに目を留めます。拷問による無数の傷跡を持つイッサは、イスラム過激派の容疑をかけられ国際指名手配されていました。

イッサは、人権派の若い弁護士アナベル・リヒター(レイチェル・マクアダムス)の助けを借り、イギリス人の銀行家トミー・ブルー(ウィレム・デフォー)と接触しようとします。ブルーの経営する銀行には、イッサが目的とする秘密口座が存在するらしいのです。

ドイツ警察やCIAがイッサの逮捕に動く中、バッハマンはイッサを泳がせ、彼を糸口にテロ組織への資金援助に関わる大物を突き止めようと画策します。アナベルは、自身の過去と決別しようとするイッサを命がけで救おうとし、ブルーもまた、バッハマンのチームと共に複雑な諜報戦に巻き込まれていきます。


主なキャスト


  • ギュンター・バッハマン:フィリップ・シーモア・ホフマン
  • アナベル・リヒター:レイチェル・マクアダムス
  • トミー・ブルー:ウィレム・デフォー
  • マーサ・サリバン(CIA):ロビン・ライト
  • イッサ・カルポフ:グリゴリー・ドブリギン
  • マックス:ダニエル・ブリュール
  • イルナ:ニーナ・ホス
  • アブドゥラ博士:ホマユン・エルシャディ


主題歌・楽曲


映画の音楽は、ドイツのミュージシャンであるハーバート・グリューネマイヤーが作曲しました。特定の主題歌というよりも、緊張感と陰鬱な雰囲気を醸し出すスコアが特徴です。サウンドトラックアルバムもリリースされています。劇中では、ギャング・オブ・フォーの「To Hell With Poverty」、フィル・フィリップス&ザ・トワイライツの「Sea Of Love」などの楽曲も使用されています。


受賞歴


  • ドイツ映画賞 (2015):
    • 銀賞 (作品賞)
    • 主演男優賞 (フィリップ・シーモア・ホフマン)
    • 助演男優賞 (ダニエル・ブリュール)
  • ベルリン国際映画祭 (2014): コンペティション部門出品

  • 撮影秘話


    • 原作は、冷戦時代から現代のスパイ小説まで幅広く手掛けてきたジョン・ル・カレの同名小説です。
    • 監督のアントン・コービンは、元々写真家であり、ミュージックビデオやドキュメンタリーの制作も手掛けています。その映像センスが本作にも活かされています。
    • 撮影は、ドイツのハンブルクを中心に、実際のロケーションで行われ、リアルな雰囲気を追求しています。
    • 本作は、2014年2月に急逝した主演のフィリップ・シーモア・ホフマンにとって、遺作の一つとなりました。彼の演技は高く評価されています。


    感想


    『誰よりも狙われた男』は、派手なアクションやスリルに満ちた展開よりも、登場人物たちの心理描写や、現代の諜報戦の複雑さをじっくりと描いた、重厚なスパイサスペンスです。フィリップ・シーモア・ホフマンの、疲弊しながらも信念を貫こうとするスパイの演技は圧巻で、観る者の心を深く捉えます。レイチェル・マクアダムスやウィレム・デフォーといった実力派俳優たちの共演も見ごたえがあります。


    レビュー


    批評家からは概ね高い評価を受けました。特に、フィリップ・シーモア・ホフマンの演技、アントン・コービンの抑制の効いた演出、そしてジョン・ル・カレの原作が持つリアリティが高く評価されています。「派手さはないが、骨太で深みのあるスパイ映画」として、多くの映画ファンや批評家から支持を得ています。


    考察


    本作は、テロリズム、諜報活動、そしてその裏に潜む人間ドラマを深く掘り下げています。正義とは何か、目的のためには手段を選ばない諜報機関の倫理、そして個人の尊厳といったテーマが、複雑に絡み合いながら描かれています。また、チェチェン紛争や9.11テロといった現代史の出来事を背景に、情報機関の葛藤や、テロリストを生み出す社会構造についても示唆を与えています。


    ラスト


    ネタバレを含みます


    バッハマンの周到な計画は、最終的にCIAの介入によって阻止され、イッサは逮捕されてしまいます。アナベルやブルーの尽力も虚しく、イッサは故郷へ送還されることが決定します。

    ラストシーンでは、バッハマンがピアノを弾きながら、自身の孤独と虚しさを噛み締める姿が描かれます。彼の「より大きな悪を捕まえる」という目的は達成されず、イッサという一人の人間の運命も翻弄される結果となりました。バッハマンの表情には、正義の難しさ、そして諜報活動のが滲み出ており、深い余韻を残します。


    視聴できるサイト



    まとめ


    『誰よりも狙われた男』は、ジョン・ル・カレの原作を基に、アントン・コービンが監督し、フィリップ・シーモア・ホフマンが主演を務めた、重厚なスパイサスペンスです。派手なアクションはありませんが、リアルな諜報戦の裏側と、登場人物たちの複雑な人間ドラマをじっくりと描き出し、観る者に深い問いを投げかけます。フィリップ・シーモア・ホフマンの最後の名演は必見です。