『バートン・フィンク』






概要


  • 原題: Barton Fink
  • 公開年: 1991年
  • 製作国: アメリカ、イギリス
  • 監督: ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン(コーエン兄弟)
  • 脚本: ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
  • ジャンル: ドラマ、コメディ、スリラー、ミステリー、ノワール
  • 上映時間: 116分


あらすじ


1941年、ニューヨークで成功を収めた劇作家のバートン・フィンク(ジョン・タートゥーロ)は、その才能を買われ、ハリウッドのメジャースタジオから高額な契約金で招かれます。彼は売れない脚本家が集まる薄暗いホテル「ホテル・アール」に滞在し、プロレス映画の脚本を書くことになります。

しかし、芸術性を追求するバートンにとって、大衆向けのプロレス映画の脚本は全く手につかず、深刻なスランプに陥ります。そんな彼の隣の部屋に住むのは、陽気で人当たりの良い保険外交員チャーリー・メドウズ(ジョン・グッドマン)でした。チャーリーはバートンの話相手となり、次第に二人の間に奇妙な友情が芽生えていきます。

スランプに苦しむバートンは、著名な作家でアルコール中毒者のW・P・メイヒュー(ジョン・マホーニー)とその秘書兼愛人のオードリー(ジュディ・デイヴィス)とも交流しますが、彼らもまたハリウッドの闇に蝕まれているようでした。

やがて、ホテル・アールでは奇妙な出来事が頻発し、チャーリーの真の姿が明らかになるにつれて、バートンは現実と悪夢の境が曖昧になっていくような、奇妙で恐ろしい体験に巻き込まれていきます。ハリウッドの欺瞞、芸術の苦悩、そして孤独が交錯する中で、バートンは自分自身の存在意義と直面することになります。


主なキャスト


  • バートン・フィンク:ジョン・タートゥーロ
  • チャーリー・メドウズ:ジョン・グッドマン
  • W・P・メイヒュー:ジョン・マホーニー
  • オードリー・テイラー:ジュディ・デイヴィス
  • ジャック・リップニック:マイケル・ラーナー


主題歌・楽曲


この映画には、特定の主題歌や劇中歌は設定されていません。カーター・バーウェルが手掛けた音楽は、映画の不穏で奇妙な雰囲気を強調するスコアとなっています。ジャズやブルースを基調とした、どこか不安を掻き立てるような音楽が印象的です。


受賞歴


『バートン・フィンク』は、カンヌ国際映画祭において主要3部門を独占するという快挙を成し遂げました。

  • カンヌ国際映画祭 パルム・ドール(最高賞)受賞
  • カンヌ国際映画祭 監督賞(ジョエル・コーエン)受賞
  • カンヌ国際映画祭 男優賞(ジョン・タートゥーロ)受賞

その他、多数の映画祭でノミネート・受賞を果たしています。


撮影秘話


  • コーエン兄弟が『ミラーズ・クロッシング』の脚本執筆中にスランプに陥り、その経験から本作のアイデアが生まれたと言われています。つまり、主人公バートンのスランプは、コーエン兄弟自身の体験が反映されたものとも言えます。
  • 映画の大部分は、陰鬱な雰囲気を持つホテル・アールの中で展開されます。このホテルは、ハリウッドの成功と同時に存在する欺瞞や堕落の象徴として描かれています。
  • ジョン・タートゥーロとジョン・グッドマンは、コーエン兄弟作品の常連俳優であり、本作でもその個性的な演技が光っています。
  • ホテルのセットは、バートンの精神状態を反映するかのように、閉塞感と不穏な空気が漂うようにデザインされました。


感想


『バートン・フィンク』は、コーエン兄弟の作品の中でも特に異彩を放つ、寓話的でシュールな映画です。ハリウッドの虚像、芸術家の苦悩、そして人間の孤独と狂気を、独特のユーモアと不穏な雰囲気で描いています。ジョン・タートゥーロのスランプに苦しむバートンの演技と、ジョン・グッドマンの底知れない不気味さを秘めたチャーリーの演技が特に印象的です。観終わった後に様々な解釈の余地を残す、深く考えさせられる作品です。


レビュー


批評家からは非常に高い評価を受けています。コーエン兄弟の脚本、演出、そしてジョン・タートゥーロとジョン・グッドマンの演技が絶賛されました。一方で、その難解さや独特の世界観が、一部の観客には受け入れられにくいという意見もあります。しかし、映画史に残る傑作の一つとして広く認識されています。


考察


この映画は、単なるスリラーやドラマにとどまらず、様々な象徴やメタファーに満ちています。

  • 「common man(一般大衆)」というテーマ: バートンがプロレス映画で描こうとする「common man」とは何か、という問いは、彼自身の芸術家としてのエゴと、大衆との乖離を表しています。
  • ホテル・アールと地獄の比喩: ホテル・アールの描写は、バートンが堕ちていく精神的な地獄、あるいはハリウッドの欺瞞の象徴として読み取れます。
  • チャーリーの正体: チャーリーは単なる隣人ではなく、バートンの深層心理、あるいは彼が直面する闇そのものを具現化した存在、あるいは悪魔的な存在として解釈されることが多いです。
  • スランプと創造性: 芸術家のスランプと、その過程で生まれる狂気や暴力が、創造性の裏側にある負の側面として描かれています。


ラスト


(ネタバレを含みます)


バートンは、スランプを脱するどころか、混乱と恐怖の渦中に巻き込まれます。チャーリーが連続殺人犯であることが示唆され、さらにバートンはチャーリーの不可解な行動によって、自身も事件に巻き込まれてしまいます。

結局、バートンはプロレス映画の脚本を完成させることができず、ハリウッドでのキャリアも絶たれます。彼は荷物を持ち、奇妙な箱を抱えて、ホテル・アールを後にします。

ラストシーンは、バートンがホテルを後にし、ビーチを歩く場面で終わります。彼は、夢の中で何度も見た、海辺で水着の女性が座っている絵と同じ光景に出くわします。彼はその女性に「あなたは美しい」と語りかけますが、彼女は微笑むだけで何も答えません。バートンは、抱えていた箱を傍らに置き、遠くの夕焼けを眺めます。この箱の中身は、チャーリーが彼に渡したもの(あるいは首)と解釈されることが多いですが、明確には示されません。

このラストは、バートンのスランプが解決したわけではなく、むしろ彼が現実と悪夢の区別がつかないほどの深みに落ちてしまったこと、そして彼が真の「common man」や「美」を見つけられないまま、虚無的な旅を続けていることを示唆しています。開かれた、非常に象徴的な結末です。


視聴できるサイト


  • Amazon Prime Video (レンタル・購入)
  • U-NEXT (見放題)
  • TSUTAYA TV (レンタル・購入)
  • Google Play Movies & TV (レンタル・購入)
  • YouTube Movies (レンタル・購入)

配信状況は時期によって変動する可能性がありますので、各サービスの最新情報をご確認ください。


まとめ


『バートン・フィンク』は、コーエン兄弟が1991年に発表した、カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作です。1940年代のハリウッドを舞台に、スランプに陥った劇作家バートン・フィンクが、隣人の保険外交員チャーリーとの奇妙な交流を通じて、現実と悪夢が混濁する不可解な出来事に巻き込まれる姿を描きます。ハリウッドの欺瞞、芸術家の苦悩、人間の孤独と狂気を、コーエン兄弟独特のユーモアと不穏な雰囲気、そして象徴的な表現で描いた、深く考察を促される傑作です。ジョン・タートゥーロとジョン・グッドマンの怪演は必見で、観る者の心に長く残る作品です。



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Amazonより

1941年、ニューヨークの社会派劇作家バートン・フィンク(ジョン・タトゥーロ)はハリウッドに招かれ、映画の脚本を書くことに。しかし、そこで彼が押し付けられたのは、B級格闘映画であり、しかもチェックインしたホテルは無気味な雰囲気が濃厚で、案の定それから彼は悪夢のような日々を過ごすことになる…。

カンヌ国際映画祭でパルムドールをしたジョエル&イーサン兄弟の不条理サスペンス映画の秀作。前半はハリウッド内幕ものとしての興味を働かせつつ、次第にドラマはホテルの隣室に居を構える大男チャーリー(ジョン・グッドマン)に対する主人公の不信と恐怖の念が錯綜していく。ホテル内の息苦しく暑苦しい映像がそのまま主人公の生理と合致し、観る者までをも当惑の域へと追い詰めていくコーエン兄弟の手腕は、好き嫌いを通り越して認めるべきだろう。