映画『マザー!』(mother!)







概要


  • 原題: mother!
  • 邦題: マザー!
  • 公開年: 2017年(日本公開:2018年)
  • 製作国: アメリカ
  • 監督: ダーレン・アロノフスキー
  • 脚本: ダーレン・アロノフスキー
  • ジャンル: ホラー、サイコスリラー、ドラマ
  • 上映時間: 121分
  • R指定: R15+ (日本) / R (アメリカ)





あらすじ


人里離れた美しい大邸宅で、詩人の夫(ハビエル・バルデム)と暮らす若い妻(ジェニファー・ローレンス)。彼女は、夫がインスピレーションを得られるよう、荒れ果てた家を丁寧に修復することに情熱を注いでいました。彼らの静かで穏やかな生活は、ある日、見知らぬ男(エド・ハリス)が訪ねてきたことで一変します。

夫は快く男を迎え入れ、やがて男の妻(ミシェル・ファイファー)も現れ、二人は居座るようになります。妻は招かれざる客の存在に戸惑い、不快感を覚えますが、夫は彼らを受け入れ、創作のインスピレーションを得ようとします。

しかし、事態はエスカレートしていきます。次々と現れる見知らぬ人々が家に入り込み、妻が大切に修復した家を土足で踏み荒らし、秩序を破壊していきます。夫はそんな彼らを止めようとせず、むしろその状況を歓迎しているかのよう。妻は、自分の体と精神、そして家が少しずつ侵食されていく感覚に苦しみ、混沌と狂気が支配する状況の中で、次第に精神を病んでいきます。そして、想像を絶する破滅的なクライマックスへと向かっていきます。


主なキャスト


  • ジェニファー・ローレンス as 妻(マザー)
  • ハビエル・バルデム as 夫(ハイム)
  • エド・ハリス as 男
  • ミシェル・ファイファー as 女
  • ドーナル・グリーソン as 最年長の息子
  • ブレンダン・グリーソン as 弟


主題歌・楽曲


この映画に特定の主題歌や劇中歌は存在しません。アロノフスキー監督は、意図的に音楽の使用を最小限に抑え、代わりに音響デザインとサウンドエフェクトを多用しています。妻の息遣いや心臓の音、家の軋む音、人々のざわめきといった音響が、観客の不安感と緊張感を高める重要な要素となっています。


受賞歴


主要な映画賞の受賞歴はありませんが、その大胆な表現と挑発的な内容から、多くの映画祭で話題となりました。

  • ヴェネツィア国際映画祭: 金獅子賞(最高賞)にノミネート。賛否両論を巻き起こし、熱狂的な支持と強烈な批判の両方を受けました。


撮影秘話


  • ダーレン・アロノフスキー監督は、わずか5日で脚本を書き上げたと言われています。地球環境や人間の破壊的な性質に対する怒りから生まれた作品だとしています。
  • 映画の舞台となる家は、セットで細部まで作り込まれました。カメラはほとんど妻(ジェニファー・ローレンス)の視点から描かれており、彼女の感情的な旅路を観客が追体験できるように設計されています。
  • 撮影中、ジェニファー・ローレンスは役柄の激しい感情に没頭し、過呼吸に陥ることがあったと報じられています。


感想


『マザー!』は、観る者を選ぶ非常に挑戦的な作品です。美しい映像とジェニファー・ローレンスの鬼気迫る演技は素晴らしいものの、その過激で不穏な内容、そして観客を不快にさせる描写に衝撃を受ける人も多いでしょう。比喩的・寓意的な表現が多く、一度観ただけでは理解しきれない複雑さを持っています。しかし、そのメッセージ性や表現の力強さから、忘れられない体験となる作品でもあります。


レビュー


批評家からのレビューは非常に分かれました。

  • 肯定的な評価: ダーレン・アロノフスキー監督のビジョン、ジェニファー・ローレンスの演技、そして映画の持つ野心的な寓話性や挑戦的な芸術性を高く評価する声がありました。その大胆なメッセージ性と映像表現は、まさに「傑作」と称されました。
  • 否定的な評価: 多くの観客や批評家は、その不快な暴力描写、過剰な比喩表現、そして観客を置き去りにするような展開に批判的でした。「退屈だ」「不愉快だ」「意味不明だ」といった意見も多く見られました。


考察


『マザー!』は、多重的な解釈が可能な作品です。

  • 聖書の寓話: 妻は「地球(マザー・アース)」、夫は「神」、男は「アダム」、女は「イブ」を象徴し、人類による創造物(地球)の破壊と堕落を描いているという解釈。
  • 芸術家の苦悩: 夫の詩作と、それを支え、侵食されていく妻(創作の源泉やミューズ)の関係性を描いているという解釈。
  • 環境問題への警鐘: 人間が地球に対して行ってきた破壊行為、搾取、無関心への強烈な批判と警鐘。
  • 女性の自己犠牲と支配: 妻が自らの全てを捧げることで夫(男性社会)の創造を支え、最終的に自己を喪失していく過程を描いているというフェミニスト的な視点からの解釈。

このように、様々な視点から議論されることが、この映画の持つ魅力の一つです。


ラスト


非常に強いネタバレを含みます) 


物語の最終盤は、極度の混沌と狂気が支配する地獄絵図となります。妻が産んだ赤ん坊は、狂った信者たちによって奪われ、最終的には生贄としてバラバラにされ、食べられてしまいます。妻は絶望の淵に突き落とされ、家も完全に破壊されます。

夫はそんな状況でもなお、妻に愛を乞い、彼女の体の中から輝く「クリスタル」を取り出します。クリスタルを握った夫は、妻の心臓(あるいは存在そのもの)を砕き、再び新しいクリスタルを取り出すことで、新たな創造を始めます。そして、焼け落ちた家は再生され、新しい妻(ジェニファー・ローレンスが演じた妻と同じ姿)が目を覚まし、物語は繰り返されるかのように終わります。

このラストは、創造と破壊のサイクル、あるいは人類が地球を破壊し、そしてまた新しい始まりを求める繰り返しの様を強烈に示唆しています。


視聴できるサイト


  • Amazon Prime Video: レンタル/購入
  • U-NEXT: 見放題/レンタル
  • Google Play Movies & TV: レンタル/購入
  • YouTube Movies: レンタル/購入
  • Apple TV: レンタル/購入

配信状況は変更される場合がありますので、各プラットフォームで最新の情報をご確認ください。


まとめ


『マザー!』(mother!)は、2017年に公開されたダーレン・アロノフスキー監督による異色のホラー・サイコスリラーです。ジェニファー・ローレンスが主演を務め、人里離れた家を舞台に、次々と訪れる見知らぬ人々によって日常が侵食され、やがて狂気と破壊に包まれていく様を描きます。聖書の寓話、環境問題、芸術家の苦悩など、多層的な解釈が可能な強烈な寓話であり、その過激な表現と挑発的な内容から、ヴェネツィア国際映画祭で賛否両論を巻き起こしました。観る者を選ぶ作品ですが、一度観たら忘れられない衝撃と深い考察をもたらす、記憶に残る一本です。